会長挨拶
第9回日本肺高血圧・肺循環学会学術集会
会長 福本義弘
久留米大学医学部 内科学講座心臓・血管内科部門 主任教授
この度、第9回日本肺高血圧・肺循環学会学術集会を、副会長の田中良哉先生(産業医科大学第1内科学 教授)、塩瀬明先生(九州大学大学院医学研究院循環器外科学 教授)、山岸敬幸先生(慶應義塾大学医学部小児科 教授)とともに久留米にて開催させていただく事になりました。このような栄誉ある機会をいただきましたこと、会員の皆様方に心より感謝申し上げます。
肺高血圧症診療は、この20数年で素晴らしい進歩を遂げております。これは病態生理の解明、著効する薬剤の開発、カテーテル治療や外科的治療手技の進歩などによるものであり、現在のわが国の専門施設における肺高血圧症の治療成績は世界のトップレベルとなっております。しかしながら、まだまだ明らかにされていないことも多く、さらなる発展が望まれています。
肺動脈性肺高血圧症(PAH)は小肺動脈の増殖病変が特徴的ですが、特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)でも典型的なものと非典型的なものでは病態生理が異なっているはずです。また原因となる疾患を有する、いわゆる2次性のPAHでも、炎症性か非炎症性か、によっておのずと治療方針も異なってくるはずですが、まだ治療方針の明確な差異はありません。また、肺静脈閉塞性疾患(PVOD)や肺毛細血管腫症(PCH)はPAHとは発症機序が異なると思われますし、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は線溶系の異常によるものですが、慢性化した血栓を溶解できる薬剤が開発されれば、本質的な治療法の確立につながると思われます。すばらしい進歩を遂げているこの領域ですが、肺高血圧症の治療はまだ本質的な治療を行うところまで到達していません。将来的には病態別に根本原因を治療できるような時代が来ると期待しているところです。
本学術集会では、肺高血圧症を来すすべての疾患を対象に議論いたします。すなわち、呼吸器・膠原病・循環器・肝疾患領域において、小児から内科・外科まで幅広く、分野横断的な学術集会となります。それぞれの分野からエキスパートをお呼びし、特別講演およびシンポジウムなどを企画すると同時に、一般演題も若手研究者をはじめ、全国から基礎研究および臨床研究を発表していただき、若手研究者の育成にもつながる学術集会となることを期待しております。さらに海外の著名な研究者との議論も行い、もっともっとこの領域が進んでいくことを期待しているところです。
さて、肺高血圧・肺循環障害を議論するにあたり、肺血管の異常はもとより、左心系・右心系の機能障害、さらに肺実質・門脈循環をはじめとする全身臓器の機能異常を論ずる必要があります。そして、疾患発症および進展メカニズムの解明、生活習慣の是正、運動療法・薬物療法・外科的治療などの新規治療法の確立を目指すことが、本学術集会の目的でもあります。
肺高血圧症診療の将来像としては、肺循環障害が全身臓器へ及ぼす影響、逆に全身臓器から肺循環障害を来す影響を予測することにより、なるべく早期に異常を発見し、疾患発症メカニズムに即した治療を行うことができる、例えば細胞増殖が原因だからその増殖を抑制する、といった治療ではなく、細胞増殖を来す原因をつきとめ、その原因を除去するような疾患の発症・進展メカニズムに即した治療、そのような未来像を描いております。
上記を踏まえて、今回の学術集会のテーマを、「肺高血圧症診療の将来を見据えて:肺循環と全身臓器とのクロストーク」としました。これまで本学術集会では診療科の壁を越えた連携がすでに実践されていますが、腹部臓器とのクロストーク、特に門脈循環と肺循環の関連をさらに踏み込んでいきたいと考え、本学術集会では肝臓専門医によるセッションを企画いたしました。さらには診療科を広げ、全身臓器の連携を想定し、第9回日本肺高血圧・肺循環学会学術集会が新たなブレイクスルーをもたらすことを期待しております。